総説
自筆証書遺言は、遺言者本人が全文を自分で書くことを要求されています。筆跡によって遺言者本人が作成したものかを判定でき、遺言者の真意を確認するためです。
添え手による遺言書の作成
遺言者が病気やケガのためにきちんとした文字を書くことが困難な状態である場合に、他人に補助してもらって書いた遺言の効力が問題です。
たとえば、被相続人が遺言書を作成したいと思ったが、病気のために視力が衰え、かつ手が震えて自分ひとりでは満足な字を書くことができないことが、ままあります。
このような場合に、妻に後ろから自分の手を握らせて、添え手をしてもらった状態で、一字一字書こうとする文字を声に出して明かにしながら、ようやくにして遺言書を書き上げたところ、遺言書の字はかなり整ったものになった、というような場合、遺言者の自書といえるでしょうか。
判例は、遺言者が証書作成時に自書能力を有し、他人の添え手が単に始筆もしくは改行にあたり、あるいは字の間配りや行間を整えるため、遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、または遺言者の手の動きが遺言者の望みに任されており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけの場合だったとします。
この場合、添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できる場合には、有効な自書があったものとしています。
文書作成機器の利用
自書を求める理由が、筆跡による本人の書いたものであることがわかるところにあるとすると、自筆証書を電子複写機でコピーしたもの、パソコンを用いて作成したものは、自書とは認められません。
カーボン紙による複写の方法で記載された遺言書については、自書の方法として許されないものではないとした判例があります。
カーボン紙のインクを通した表記となっても、自筆性が失われるものではないと解されますが、あえてカーボン紙を用いたことに合理的理由が認められるかどうか四囲の状況から自筆であることの判断がなされるべきでしょう。
音声や映像(テープレコーダー、ボイスレコーダー、ビデオテープ、デジタル動画など)によって遺言をしても、法的効力を有しません。
自筆ではない財産目録の添付
2018年の相続法改正により、全文自筆の例外として、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については自書することを要しないものとされました。
したがって、遺言者が自分でパソコンを用いて目録を作成することもできるし、他人(親族や司法書士などの専門職)に作成を依頼することもできます。
さらには、行政機関(法務局など)・金融機関などが作成した文書類(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳などの写し)を利用して財産目録とすることも認められます。
財産目録は、自筆証書と一体のものであることが認められれば足りるので、証書との契印、合綴をすること、あるいは証書と同一の封筒に入れて封印をすることも必要ではありません。
また、「添付する」という語の意味から、目録は本文とは別の用紙(別紙)が使用されることを想定しています。
したがって、文字どおり本文と一体とすること、つまり自筆証書と財産目録を、同一用紙(同じ面または裏面)で作成することは認められないと解されています。
預金通帳の余白部分(裏面)に本文を書くこと、つまり自筆で、この預金を某に遺贈する、日付記載、署名をし、押印するという簡便な方法で遺言を作成することも考えられますが、これは財産目録の添付にはならず、財産目録の部分は無効です。
同一の用紙に記載することを認めた場合、完成した遺言書の余白部分に第三者が財産目録を印刷するなどして、遺言書の変造を容易にするおそれがあることや、許容される方式とそうでない方式との区別があいまいになるおそれがあることなどが考慮されたものです。
もっとも、財産目録が無効であっても、遺言本文のみで遺贈などの対象が特定できるときは、遺言自体は効力を失いません。たとえば、「預貯金すべてを相続させる」の遺言です。
しかし、本文のみでは遺言の対象となる財産が特定できないときは、遺言の本文の当該部分は無効となります。
遺言書本文と預金通帳が同封されている場合において、通帳の表紙(裏面)の金融機関・支店・口座の種類・番号・口座名義が記載されているページに、遺言者の署名・押印がなされているが、入出金・残額記載のページには、署名・押印がないときでも対象となる預金としては特定されていると考えられます。
表紙と最終残高の記載面の写しが、署名・押印付きで同封されている場合に、遺言作成時の残高と相続開始時の残高に増減があるときでも、遺贈などの金額が明示されているのでなければ、当該預金口座の相続開始時の預金の全額が対象とされていると解することができます。
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