自筆証書遺言の日付の記載
特定の日付
日付は、遺言の成立のときを明確にするために必要とされます。
遺言作成時における遺言能力の有無を判定し、また複数の遺言が存在する場合に、その前後を確定するうえで日付の記載が不可欠です。
したがって、暦上の特定の日を表示すると認められる記載でなければなりません。
もっとも、客観的に特定できるものが示されていれば足りるので、元号なしの「7年2月10日」でも特定可能であれば認められます(遺言者の年齢や遺言内容から2007年でも平成7年でもなく、令和7年であることがわかる場合など。ただし、3年3月3日という日付が、平成3年か令和3年か判別しがたいときは無効となります)。
「70歳の誕生日時」とか「定年退職の日」という場合でも十分です。
「令和7年2月吉日」と記載されている場合は、特定の暦日を示すものではないから、日付記載の目的を達することはできません。
判例は、このような遺言(吉日遺言)は、日付の記載を欠くものとして無効としています。学説も、多くはこの判例を支持しています。
正確な日付が、遺言者の遺言能力の判定に関係がない場合、しかも遺言は1通しかないという場合もあるから、必ずしも日まで特定できる必要はないという学説もあります。
裁判例としては、年月日が特定しうる記載でなければならないので、月日のみでの記載では、要件を満たさないとした事例があります。
事実と異なる日付
記載されている日付と、日付以外の部分(本文・氏名)を書いた日が異なる場合でも、日を跨いだ作成や数日をかけて作成したときなど、一連の遺言作成の行為とみなすことができるならば有効です。
判例は、遺言書のうち、日付以外の部分を記載し、署名して印を押し、その8日後に当日の日付を記載して遺言書を完成させた場合には、当該遺言は、特段の事情のない限り、その日付が記載された日に成立した遺言として有効としています。
記載された日付が、実際の作成日付と異なる場合の効力について学説は分かれていましたが、判例は、それが誤記であること、および真実の遺言作成日が遺言証書の記載その他から、容易に判明する場合は、日付の誤りは遺言を無効とするものではないといっています。
たとえば、「昭和48年」とすべきところ、「昭和28年」と誤記した事例や「平成2000年」との記載を「西暦2000年」あるいはこれに対応する「平成12年」を表示するものと認められるとした事例があります。
2月29日(閏年でない年)、9月31日などは、実際には3月1日、10月1日であった可能性もあるし、2月28日、9月30日であった可能性もあります。ほかに競合する遺言がなければ、この日付のみで無効とする必要はないであろうとも考えられます。
入院中に全文・日付などを自筆し、退院して9日後(全文などの自筆から27日後)に、押印して遺言を完成させた場合でも、日付違いでただちに無効となるものではないとなった事例があります。
自筆証書遺言の氏名の自書
氏名を自書する(署名)のは、遺言者を特定するためですから、目的を達することができる限り、戸籍上の氏名である必要はなく、婚姻前の氏、その他の通称でもペンネーム、芸名、雅号などでもよいとされています。
氏または名の一方だけしか書いていなくても、遺言者を特定することができるならば有効です。
かつて、「親二郎兵衛(親の二郎兵衛の意)という氏の代わりに身分関係を記載したようなものでも適法とされた例があります。
自筆証書遺言の氏名の押印
押印の意義
自書に加えて押印を必要とした趣旨は、遺言者の同一性、遺言の真意性および完結性を担保するためです。
文書面に署名し押印するのが通常であろうが、書簡の形式をとった遺言で、本文の自書名下に押印がなかったが、本文の入れられた封筒の封じ目に押印がされていた場合につき、押印の要件に欠けることはないとした事例があります。
印章は、いわゆる実印である必要はありません。木・石などを加工した印章に限られず、指印でも足ります。
日本に帰化した白系ロシア人が、英文で作成し、署名(サイン)しただけの遺言でも日本の生活において「印」をほとんど用いなかった遺言者の特別な事情を考慮して有効とした事例もあります。
押印は、遺言者自身の手によってなされる必要はありません。病床にある遺言者の依頼により、遺言者の面前で他人が押印した場合に有効とした事例があります。
契印
一般の契約書などで文書が何枚にもなる場合、綴じ合わせて綴じ目に押印して(契印)、連続した一つの文書であることを担保しようとするのが通例です。
遺言の場合も数行にわたる場合もありますが、全体として一通の遺言書として作成されたものであることが確認できるならば、契印がなくてもよいし、そのうちの一枚に日付、署名、契印がされていれば有効です。
逆に署名下に押印がなく、2枚の用紙の契印のみが押印されていた遺言も、有効とされています。
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