総説
遺贈の物上代位として、民法999条は次のように規定しています。
民法第999条
1. 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して賞金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2. 遺贈の目的物が他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第243条から第245条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
本条の趣旨
本条1項は、特定遺贈の目的物につき、遺言者の死亡前に滅失・変造・占有喪失があり、それによって遺言者が第三者に対して償金を請求する権利を有する場合には、当該遺贈は執行することなく、当該償金請求権を客体とする遺贈として効力を有するものとするのが、遺言者の意思であることを推定する規定です。
本条2項は、遺言者の死亡前に特定遺贈の目的物が他の物と付合または混和したために、もとの物が法律上消滅し、代わりに合成物または混和物という新たな物が生じた場合において、目的物の滅失によって当該遺贈は執行するわけではなく、当該合成物または混和物に対する所有権または共有権を客体とする遺贈として効力を有するものとするのが、遺言者の意思であることを推定する規定です。
目的物が滅失したことにより償金請求権が発生した場合
滅失(一部滅失や毀損も含まれ、また目的物は物理的に存続しているが、遺言者がその所有権を失ったこともこれに含まれるとされています)によって生ずる償金請求権の例としては、次のようなものがあります。
目的物が第三者の不法行為により滅失毀損した場合の損害賠償請求権、目的物の滅失により生じた保険金請求権、土地収容による保証金請求権などです。
変造による生ずる償金請求権としては、付合・混和・加工によって、もとの物が滅失しかつ新たに生じた物が他人の所有に帰したために、遺言者が得るに至った償金請求権が考えられます。
占有喪失により生じる償金請求権としては、遺言者が遺贈の目的物につき、物件的返還請求権を行使できない場合において、代わりに生じる損害賠償請求権などが考えられます。
本条1項が対象としているのは、目的物の滅失などによって生じた償金請求権が、遺言者の死亡時に相続財産に属していた場合です。
遺言者の死亡前に償金請求権が発生していたが、遺言者でない者への償金の支払いが弁済として有効とされる場合には、遺言者は支払いを受けた者に対し、不当利得返還請求権を有します。
その後に、遺言者が死亡したときには、本条1項により、不当利得返還請求権が遺贈の客体になると推定されるべきであると解されています。
これに対し、遺言者が死亡前に自ら当該償金請求権を行使して弁済を受けていた場合には、遺言者は死亡時に当該償金請求権を有していないから、本条1項は適用されません。
目的物が付合・混和した場合
本条2項は、243から245条を引用しています。
民法243条
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
民法244条
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
民法245条
前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。
遺贈の客体である不動産につき、付合があった場合(242条)には、付合の前後で不動産の同一性は保たれるから、新しい物が生成された場合を想定する本条2項では、242条は引用されなかったのです。
また、遺言者所有の遺贈目的物に、第三者が加工を加えた場合については(246条)、加工者が加工物の所有権を取得するときには、本条1項が適用されますが、加工物が遺言者の所有にとどまるときには、本条2項が類推適用されるべきでしょう。
民法242条
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
民法246条
1. 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
2. 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
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