民法1019条の規定
(遺言執行者の解任及び辞任)
民法1019条
1. 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2. 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
本条の趣旨
遺言執行者は、遺言者の意思を実現するという重要な任務を行う以上、職務を解かれたり辞任したりするには、一定の事情のもとで厳格な手続きを求める必要があります。
そこで、本条は遺言執行者の解任、辞任について正当な事由を求め家庭裁判所の関与を要件としました。
遺言執行者の解任と辞任
遺言執行者の法律関係は、委任に類似する面もありますが契約によるものではなく、法定の地位や独自の職務権限に基礎を置きます。
したがって、一定の事由の存在と厳格な手続きのもとに決定がなされなければならず、本条はあくまでも家庭裁判所による解任を原則にしました。
解任は、家庭裁判所の権限によるものであって、本条2項の辞任と異なり、家庭裁判所は解任を許可するわけではありません。
これに対して、遺言執行者の辞任は正当な事由があるときに家庭裁判所の許可により行うことができます。
遺言執行者の解任と解任の事由
遺言執行者を解任するための事由としては、任務を怠ったとき、その他正当な事由が挙げられています。たとえば、判例では、遺言執行者が一部の受遺者らと通じてその利益代表者であるかのようにふるまい、相続人間の遺産分割協議に介入し紛争を再発激化させる言動をとっている場合、「主として全受遺者の利益を保護する任務」違背があるとしています(福岡家庭裁判所大牟田支部審判昭和45年6月17日)。
また、遺言執行者が遺贈の目的である土地建物をめぐる所有権確認訴訟で被告から金員を受け取り、被告に有利な示談をした場合、相続人に迎合して受遺者の遺言による利益を無視した所為は許されないと判示して、解任が認められています(名古屋高等裁判所決定昭和32年6月1日)。
さらに、遺言執行者が相続人の一部と特別に緊密な関係にあり、対立相続人たちとは相反する立場に属し、不公正で相続人全員からの信頼が得られない場合、適任者でなく解任の正当事由があるとされたケースもあります(東京高等裁判所決定昭和44年3月3日)。
また、遺言執行者が、株式会社の代表取締役である相続人に対し、自らの子を著しく高額な給与で同社に雇用させた行為は、相続人が同社の代表者としての地位を維持するために遺言執行者の求めを拒否できず、その地位を利用して自己の利益をはかるもので、解任を正当とする事由にあたるとされた事例もあります(東京高等裁判所決定平成23年9月8日)。
これに対して、遺贈された動産の保管にあたって善良なる管理者の注意をもって、その滅失、棄損、紛失または盗難を防がなければならないが、第三者に保管を任せても滅失棄損の恐れがない以上、その任務を怠ったことにはならないとする裁判例もあります(大阪高等裁判所決定昭和33年6月30日)。
また、相続人間に遺産の範囲をめぐる広範な紛争があり遺言の有効性も訴訟で争われているような場合には、財産目録の調整や交付をしていないことも解任を相当する落ち度とはいえないと退けたケースもあります(東京家庭裁判所審判昭和61年9月30日)。
要するに、一部の者に加担して公正な遺言の実現を期待できないような客観的事由がある場合に、家庭裁判所としては解任を相当とする正当な理由を認めていると言ってよいでしょう(大阪高等裁判所決定平成17年11月9日)。
遺言執行者の辞任と辞任の事由
遺言執行者の辞任については、正当事由の存在と家庭裁判所の許可が必要です。
辞任のための正当事由とは、疾病や長期不在、個人的な仕事や公務多忙など、およそ遺言を執行するにふさわしくない個人的事情や公正な遺言の実現が客観的に期待できないような事由と解してよいでしょう。
正当事由にあたるか否かは家庭裁判所の裁量によりますが、それによって家庭裁判所の拒否が決まることになります。
解任・辞任の手続き
遺言執行者の解任・辞任の許可は、審判事件であり利害関係人から相続開始地の家庭裁判所に請求することができます。
家庭裁判所は、相続人や受遺者らの利害関係人からの請求を待たずに、職権で解任することはできません。
辞任の申立ては、遺言執行者自らが行わなければなりません。
解任の審判をする際には、必ず遺言執行者本人の陳述を聞かなければなりません。
解任・辞任の審判は遺言執行者に告知されます。
解任の審判に対しては、遺言執行者は即時公告をすることができます。また、解任の申立てを却下する審判に対して、利害関係人は即時公告ができます。
辞任の申立てを却下する審判に対しては、遺言執行者が即時公告をすることができます。
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