生前処分その他の法律行為
甲不動産をAに遺贈する旨の遺言を作成したのちに、遺言者が甲不動産をBに売却した場合、遺言と抵触する生前処分がなされたものとして遺言の撤回が擬制されます。
遺言者は、前の遺言を撤回しようとするのであれば、遺言の方式により撤回の意思を表示したうえで、処分行為を行うのが本来の形式です。
しかし、民法は方式による意思表示の原則を緩和し、生前処分の事実から撤回の効力を認めたものです。
その趣旨は、遺贈目的物が処分されれば遺言内容の実現が困難になるのであり、そのような困難を遺言者自身が成した場合には、遺言を撤回したものと擬制するのが相当であることにあります。
「その他の法律行為」として問題になりそうな行為は、必ずしも明確でなく生前処分と並んでこれをあげるのは不必要な重ね言葉であると指摘されています。
実際に問題になるのは、法律行為ではなく身分行為です。
生前処分などの法律行為が無効であり、または取消された場合については議論があります。
遺言者に法律行為で表示された内容に対応する意思がまったく欠けていた場合は別として、遺言者には当該行為をする意思はあったと認められるのであるから、撤回の効力を生ずるとの見解もありえます。
しかし、法律行為がなされた事実にもとづいて撤回の効果を認めるのが法定撤回であり、撤回の効果は認められないというべきとの考えもあります。
「単に生前処分によって遺言者の意思が表示されただけでは足りず、生前処分によって確定的に法律効果が生じたことを要する」として、無効や取消しの場合に抵触は認められないとした判例があります(最高裁判所判例昭和43年12月24日)。
遺言者による行為
撤回の効果が認められる根拠は、遺言者自らが遺言と抵触する行為を行なって遺言の実現を困難にすることにあるから、生前処分などの行為を遺言者自らが行うことが必要です。
成年後見人が抵触行為を行なった場合には、撤回は犠牲されません。
抵触する行為
抵触する行為とは、遺贈の目的物を遺言者自らが受贈者以外の者に贈与することを典型例とします。
前の遺言を執行させなければ後の行為が有効となりえない程度に内容が両立しないことをいいます。
しかし、抵触遺言の場合と同様にそのような両立不能の場合に限らず、後の行為が前の遺言と両立させない趣旨でなされたことが明白であればよいとされます(大審院判例昭和18年3月19日)。
この考え方によれば、抵触の有無の判断は遺言者の意思の解釈に帰することになり、一方で遺言の解釈が他方で遺言後の行為の解釈が問題となることになります。
遺言者の意思の探求は、内容的には両立不能とまではいえなくとも、遺言との抵触を認めることがありうることを主として想定した基準であるが、時には抵触を否定する方向にもなりうることに注意が必要です。
たとえば、典型例とされる遺贈目的物の受遺者以外の者への売却であっても処分行為を成した遺言者が、同時に前の遺贈は撤回しない旨の遺言をしているときには、遺贈は依然として有効であるとされます。
遺言者は売却によって得られる代価を、受遺者に交付する意思である場合や、遺贈義務者に買戻しによる受遺者への移転などの義務を負わせる意思である場合が考えられます。
前の遺言と後の遺言者の抵触行為などに関する法文
このように遺言書が生前処分などでの遺言内容の抵触について、民法1023条で規定しています。
民法1023条
1. 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2. 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言の撤回・取消し概説の一覧
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