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遺言の撤回・変更・保管

遺言の撤回・変更・保管

死亡前の遺言

遺言は、遺言者の生存中は、いかなる権利も義務も発生しません。たとえば遺言書に、「〇〇銀行の定期預金は長男の一郎に相続させる」と書いたとしても、その後、遺言者が定期預金を解約して使用することもでき、解約したことで遺言は撤回したことになります。

このように遺言は、遺産の相続にあたって遺言者の最終意思の確認を尊重する制度ですから、遺言者の意思であれば、いつでも、撤回したり変更したりすることができるのです。

また、遺言書に、「私が所有する〇〇作の掛け軸は長女の春子に相続させる」と書いたとしても、その後、遺言者が故意にその掛け軸を焼いてしまった場合は、遺言は撤回したとみなされます。

一部の変更・撤回

遺言書の一部を変更したり、撤回したりする方法は、遺言書の方式によって違います。

自筆証書遺言であれば、法律で決められた加除訂正の仕方にしたがって、遺言者が原文に手を入れることができます。

民法第968条では、自筆証書遺言の加除その他の変更は、「遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければその効力がない」と規定しています。

秘密証書遺言の場合は、公証人が認めて封印したものなので、遺言書であっても開封して手を入れることはできません。新たに、変更や撤回部分を記載した秘密証書遺言や公正証書遺言、自筆証書遺言を作成する必要があります。

公正証書遺言の場合は、新たに変更や撤回部分を記載した秘密証書遺言や公正証書遺言、自筆証書遺言を作成します。

新たに、変更や撤回を記載した遺言書を作成する場合は、たとえば、部分的な撤回であれば「令和◯年◯月◯日作成の遺言中、第4条に、長女に遺言者名義の郵便貯金全額を相続させる、とあるのを第4条全文を削除し、撤回する」のように記載します。

遺言の変更・撤回をする場合は、前の遺言の方式である必要はありません。

遺言のすべての撤回

遺言のすべてを撤回したい場合、自筆証書遺言や秘密証書遺言であれば、破棄したり償却したりします。

公正証書遺言は、公証役場に出向いて破棄の手続きをします。または、新たに撤回する旨の遺言書を作成します。新しい遺言書は、自筆証書遺言でも公正証書遺言でもかまいません。

二通以上の遺言書

遺言書が複数ある場合は、もっとも新し日付のものが有効とされます。全面的に書き直した遺言書の場合は、日付の新しいものが有効になります。

日付の新しい遺言に、前の遺言内容に抵触する内容が書かれていた場合は、その部分だけ新しい遺言が有効になり、前の遺言の残りの部分もそのまま有効になります。

不要になった遺言

遺言は、書いたあと定期的に見直すことも大切です。ただ、遺言書が複数あると、死後遺族が混乱するもとになります。
書き直して不要になった遺言書は、破棄するか償却するなどした方がよいでしょう。

遺言書の保管

遺言書は遺言者の死後、発見されて遺言の内容が実行されなければ意味がありません。そのためには、保管方法にも工夫が必要です。

自宅に保管する場合は、相続人の発見しやすい場所に保管するのもひとつの方法ですが、自筆証書の場合は、発見した者によって、開封され読まれたり、偽造変造の可能性も出てきます。

銀行の貸金庫に保管したり、弁護士や司法書士など、信頼できる第三者に保管を依頼するのもひとつの方法です。なお、自筆証書遺言は、2020年7月より法務局の保管所に保管することもできます。

公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されているので、改ざんや紛失のおそれはありませんが、遺言書の存在自体が明らかにならなければ、死後遺族の手に渡らないおそれがあります。本人がもっている正本や謄本を発見しやすい場所に保管したり、公正証書遺言の存在を家族に知らせておくなどしましょう。正本を司法書士や弁護士に預ける方法もあります。

秘密証書遺言以外は、封筒に入れて封印しなければならないという規定はありませんが、自筆証書遺言を作成したら、秘密の保持や変造、改ざん、汚損を防ぐためにも封印しておいた方がよいでしょう。

公正証書遺言以外は、遺言者の死後、遺言書の保管者、発見者は、すみやかに遺言者の住所地の家庭裁判所に届け出て、検認の手続きをしなければなりません。

封印してある遺言書は、勝手に開封することができません。遺言者の死後、家庭裁判所での検認の際に、すべての相続人に立ち会いの機会を与えたうえでないと開封できないことになっています。家庭裁判所への届け出を怠ったり、勝手に開封すると、5万円以下の過料に課せられます。

記事作成:司法書士・行政書士 美馬克康

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